大阪地方裁判所 昭和27年(ワ)4702号 判決
「訴外Aは昭和二十五年春頃、自己所有の本件家屋をその敷地と共に訴外Bに金十九万円で売渡し、その代金は分割して同年八月頃迄に全額の支払を受けた。その売買の仲介斡旋をした訴外Cは、売主であるAからその権利証を受取り、保管中右家屋並に土地を恰も自己が買受けたもののように装つて、当時同居していた被告に、自己が被告から借受けていた金八十五万円の借金の担保に提供すると言つて右権利証を手渡し、被告は訴外Cの右言葉を信用して担保に提供されたものとして之を受取り、訴外Aの母A´と交渉の上、右家屋を自己の債権の代物弁済として所有権を取得したものとして中間を省略して訴外Aから直接被告への所有権移転登記をしたと言うことであつてこの事実からすると、真実訴外Aから本件家屋を買受けたのは訴外Bのみであり、被告はたまたまその権利証を預つていたに過ぎず、右家屋の所有権者でもなく、且その処分権限もなかつた訴外Cに欺されて、代物弁済によつて所有権を取得したものとして、その所有権移転登記を受けたに過ぎないものと言わねばならないから、被告はその所有権を取得するに由がなく従つて被告の右所有権取得登記は真実の権利を伴わない登記であつて無効のものである。次に訴外Bは前認定の買受けた本件家屋を、その敷地と共に昭和二十七年七月十日原告に売渡し、原告がその所有権を取得したものであることが明かである。ところで、およそ不動産に関する登記制度は現在の真実の権利状態を公示することを目的とするものであるから、実体上の権利を有せず唯所有権取得登記の名義人に過ぎないものは登記簿上の記載を現在の真実の権利状態に吻合させるようにする義務があるのであつて、これは敢えてその不動産についての現在迄の権利変動をそのまま登記簿上に表わす必要はなく、便宜の方法により得るものと解すべきであるから、前段認定のように本件家屋についての被告の所有権取得登記は無効のものであつて、唯その登記簿上の所有名義人に過ぎない被告は、その無効の登記を抹消して被告の前者即ち訴外Aより実体上の権利変動の順を追い、現在の権利者である原告に所有権移転登記をして、現在の権利状態を登記簿上に表示することもできるし、現在の権利者である原告より請求があれば右無効の登記を抹消せず、直接被告より原告に所有権移転登記をすることによつて現在の権利状態を表示することも差支えがないのである。それ故被告は現在の権利者である原告の請求によつて、そのいずれにも応ずる義務があるものと言わねばならない。」